
ゆりかもめ

新橋から豊洲までを のんびりと 行ったり来たりする“ゆりかもめ”。
高架を滑らかに走るその姿はモノレールのよう。
コンピューターによる自動運転の新交通システムです。
車窓から眺める景色は レインボーブリッジやスカイツリーや東京タワーなど、次々と目を楽しませてくれます。
ゆりかもめの停車する駅の数は16、それぞれに文様と伝統色が配されている洒落た駅です。
電車システムの新しさと、駅に結びついた伝統。
不易流行の“ゆりかもめ”です。
さぁ、ゆりかもめに乗って、それぞれの駅の文様と伝統色を巡りましょう。

新橋駅 : 新橋色 と 柳縞文様
新橋駅の色は「新橋色」、文様は「柳縞文様」です。
少し緑味のある明るい水色、ターコイズブルーです。
明治時代に輸入された染料の色で、新橋の芸者さんたちが好んだことから名付けられました。
当時の新橋は政府高官がひいきにした人気の花街、日本一の芸者場でした。
そして、そこで流行した新橋色は、華やかな世界への憧れの色だったのです。

「柳に雪折れなし」。
柳の枝は細いけれど、そのしなやかさ故に雪の重みに耐える強さがあります。
この強い生命力から、柳には神が宿ると信じられていました。
柳の文様には「厄除け」の意味があります。
「縞文様」とは縦の線の模様のことです。
古代 日本には縦縞の文様はありませんでした。
室町時代に南蛮貿易で縦の縞の織物が輸入され広まったことから、他の「島」の文様…「縞」文様と呼ばれるようになりました。
汐留駅 : ウコン色 と 葦文様
汐留駅の色は「ウコン色」、文様は「葦文様」です。
ウコンとは、生姜科の草「鬱金」の根からとれた染料です。
スパイスとしても有名、「ターメリック」とも呼ばれ、カレーの黄色はこのウコンの色です。
独特な香りには防虫効果があり、美術品や絹織物など大切な品を包む布を染めたそうです。
ウコンの漢字は「鬱金」、「鬱」の字は盛んな状態を表します。
「盛んな金」という漢字から、金運の色として親しまれてきました。

川辺に群をなして生える葦は、日本古来から親しまれてきた植物です。
「あし」は「悪し」にも通じるため、反対に「よし(良し)」とも呼ばれます。
古事記では、日本のことを「豊葦原之瑞穂国」と記しています。
葦が茂り、稲穂が瑞々しく育つ—— 豊かな国という意味です。
葦は邪気を払う力があると考えられてきました。
そのため、お正月に神社で授与される破魔矢の材料に使われています。
葦文様にも厄除けの意味があります。

竹芝駅 : 鉄紺色 と 鱗文様
竹芝駅の色は「鉄紺色」、文様は「鱗文様」です。
鉄紺色は、ほんのわずか緑がかった深い紺色です。
江戸時代には、この色が流行り 盛んに生活に取り入れられてました。

連続した三角形の文様を鱗文様と呼びます。
蛇や龍の鱗に似ているため。
蛇は脱皮を繰り返すことから、鱗文様には再生の願いが込められています。
また古代の人々は三角形には魔除けの力があると信じており、鱗文様には魔除けの意味もあります。
日の出駅 : 紅色 と 日足散らし文様
日の出駅の色は「紅色」、文様は「日足散らし文様」です。
紅花を原料として染めた色です。
唐から伝わった紅花は、平安時代は貴重で高貴な色でした。
やがて紅花は日本でも栽培されるようになり、この紅の色素が口紅などの化粧品になりました。

「散らし」とは、ところどころにモチーフを散らして描くことです。
「日足文様」は太陽とその光を表現している文様です。
中央の丸(●)が太陽、周囲の放射線が光。
活力と成長の象徴として太陽への信仰が生まれ、そこから起こった文様とされています。
戦国時代には多くの武将が家紋とし、特に九州の武将たちに好まれました。
日足文様は様々な種類があり、楽しい文様です。

芝浦ふ頭駅 : 水浅葱色 と 露芝文様
芝浦ふ頭駅の色は「水浅葱色」、文様は「露芝文様」です。
「浅葱色」とは青緑色のこと。
「水」は水色の意味ではなく「水で薄めた」という意味です。
平安時代、儚さを「道芝の露」と喩えて表現しました。
道に生えている芝草に宿る露は、朝陽を浴びれば消えてしまうから。
美しい和歌があります。
おきてゆく 人のなごりや をし明けの 月かげしろし 道芝の露
(女性を置いて、朝早く起きて去ってゆく人。夜明けの白い月光に輝く道端の芝の露も、女性と共に名残りを惜しんでいるのでしょうか)

文様の「露芝」は「道芝の露」から生まれました。
半円の弧は“芝草”を、丸い玉は“露”を表現しています。
儚い美しさを込めた叙情あふれる文様です。
お台場海浜公園駅 : 松葉色 と 老松文様
お台場海浜公園駅の色は「松葉色」、文様は「老松文様」です。
その名のごとく松葉の色を表し、濃く渋い緑色です。

老松とは、樹齢が古い松のことではなく、堂々として立派な枝ぶりの松のことです。
ゴツゴツとした根や枝に力強さがあります。
松の葉の緑は四季を通して色褪せないため「常盤の松」と呼ばれ、不老長寿の願いが込められた文様です。
台場駅 : すみれ色 と 波文様
台場駅の色は「すみれ色」、文様は「波文様」です。
すみれの花のような青味がかった鮮やかな紫色です。

波文様は種類が多く、様々な波の表情を描いています。 穏やかに続く波文様には永遠、荒ぶれた波の文様には不屈の精神や厄除けの意味が込められています。 下の絵は、さまざまな波文様です。

遥か遠くまで続く「遠波文様」 小さな波を繰り返す「小波文様」 大きく波立っている「立波文様」 荒々しい波の「波頭文様」 大きな波の「男波文様」 小さな波の「女波文様」
東京国際クルーズターミナル駅 : 海老茶色 と 帆掛け舟文様
東京国際クルーズターミナル駅の色は「海老茶色」、文様は「帆掛け舟文様」です。
赤味がかった茶色のことです。

車も汽車もなかった江戸時代、物資を運ぶ重要な手立ては、川や海を行き交う帆船でした。
有名な浮世絵、歌川広重の『東海道五拾三次』にも帆掛け舟が多く描かれています。
絵 『東海道五拾三次』品川 歌川広重 出典:ColBase
多くの舟が行き来する港は豊さの象徴でした。
この文様には繁栄の願いが込められています。
舟文様には、帆掛け舟の他、七福神や宝物を乗せた おめでたい「宝船文様」などもあります。

テレコムセンター駅 : 鳩羽鼠色 と こうもり文様
テレコムセンター駅の色は「鳩羽鼠色」、文様は「こうもり文様」です。
紫がかった鼠色で、山鳩の背の羽の色を表しています。

日本では蝙蝠と聞くと、暗く不気味な印象を持たれがちですが、中国では幸運を招く吉兆の動物と考えられています。
(蝙蝠の「蝠」の字が「福」と同じ発音ため)
100年以上生きた鼠が蝙蝠になるという伝説まであります。
蝙蝠の文様には長寿・招福・子孫繁栄などたくさんの意味があります。
江戸時代、歌舞伎役者の市川團十郎が取り入れたことで、粋な柄として流行しました。
青海駅 : 瑠璃色 と 青海波文様
青海駅の色は「瑠璃色」、文様は「青海波文様」です。
紫がかった 濃い青色で、極上の青とされています。
瑠璃とは宝石のことで、七宝(仏教においての貴重な7つの宝石)の一つです。

徐々に大きくなる扇の弧を重ねることで波を表現し、その波を交互に連続させていく文様です。
青海波という風流な名前は、平安時代に同名の雅楽を舞う衣装に この文様が使われていたことから名付けられました。
この文様はとても古く、ペルシアやエジプトなど世界各地で古くから見られ、やがて時を経て日本に伝わったとされています。
幾何学的な形の連なりですが、どこまでも永遠に続く波を見事に表現している文様です。
遥か昔に遠い国から伝わり 今も人々に愛されている文様そのものを表しているようです。
未来永劫の祈りが込められています。
青海波文様には、扇の形を菊に見立てた「菊青海波」や、雪の結晶を模した輪郭の「雪輪青海波」など、優美なバリエーションがあります。

東京ビッグサイト駅 : 桜桃色 と 桜文様
東京ビッグサイト駅の色は「桜桃色」、文様は「桜文様」です。
桜桃…さくらんぼの色です。
英語ではチェリーピンクといいます。

古代に「花」と言えば、奈良時代は「梅」、平安時代は「桜」を指しました。
梅は中国から伝来したものですが、桜の木は日本固有の木であり、神の宿る木として尊ばれてきました。
桜文様は、繁栄や五穀豊穣、開運招福の祈りが込められています。
桜文様には様々な表現がありますが、この駅の文様は風に舞い、地面にたくさん散っている様子を表した「散らし桜文様」です。
有明駅 : 柑子色 と 毛卍文様 と
有明駅の色は「柑子色」、文様は「毛卍文様」です。
柑子とは温州みかんの祖先の柑橘です。
明るい黄赤色で、平安時代からよく使われている色です。

お正月に見られる伝統芸能の獅子舞。
この唐獅子に頭を噛まれると邪気を食べてもらい、その年は平穏に暮らせるという言い伝えがあります。
唐獅子は古代ペルシアが発祥の想像上の聖獣です。
炎のように巻き毛が渦巻いて、太陽の力を持っているそうです。
獅子舞の体は、緑地に白の「毛卍文様」が特徴です。
毛卍文様は、唐獅子の巻き毛をデザイン化したものです。
毛の束が「卍」を描くように左回りに配置されているため、その名前がつきました。
毛卍文様には、魔除け・疫病退治の意味が込められています。

有明テニスの森駅 : 海松色 と 風景文様
有明テニスの森駅の色は「海松色」、文様は「風景文様」です。
海松とは海藻の一種で、茶味を帯びた深い黄緑です。
平安時代からの伝統色です。

風景文様とは、絵画の様に自然・建物・植物・動物などを組み合わせて描かれた文様のことです。
洛中洛外図から発展したとも言われ、着物の柄として好まれている文様です。
絵 洛中洛外図屏風 狩野派 出典:ジャパンサーチ(東京富士美術館所蔵)
この駅の文様は、干潟と水鳥を組み合わせて描かれた風景文様です。
水鳥とは、鷺や鴛鴦など水辺に棲息する鳥の総称で、水辺の風景と共に描かれることの多い優美な文様です。

市場前駅 : 蘇芳色 と 見立て文様
市場前駅の色は「蘇芳色」、文様は「見立て文様」です。
紫味を帯びた渋めの赤、蘇芳の木の中心部を染料とした色です。
飛鳥時代に大陸から伝わった、歴史のある高貴な色です。

文様のデザインの一つに「見立て文様」があります。
ある素材を別の素材に似せて描く方法です。
代表的な「見立て文様」は、牡丹の花を蟹に見立てた「蟹牡丹文様」。
牡丹文様には、その豪華な雰囲気から富貴と繁栄の意味があります。
蟹は横歩きで財を引き寄せ、右のハサミで前厄、左のハサミで後厄を断ち切る力があると言われています。
蟹牡丹文様には金運、商売繁盛の願いが込められているのです。
「蟹牡丹文様」の中でよく使われるデザインは、絵の左の方。
牡丹の葉を足と爪に、花を甲羅に、蕾を目に見立てた、一見して蟹と分かる図柄です。
しかし、この駅の文様(絵の右)は少しデザインが違います。
蟹にも牡丹にも共に見える工夫がなされています。

新豊洲駅 : 江戸紫色 と そろばん縞文様
新豊洲駅の色は「江戸紫色」、文様は「そろばん縞文様」です。
紫色には「今紫」と「古代紫」があります。
平安時代、紫は禁色(天皇、皇族のみ着ることのできる色)でした。
しかし、染め方を詳しく記したものは残されていません。
江戸時代になり、平安時代の紫色を想像して染めたのが「古代紫」。
それに対し、新しい方法で染めた紫が「江戸紫色」、別名「今紫」と呼ばれるようになりました。


泰平の世となった江戸時代、寺子屋の普及により、庶民の子供たちにも学問を学ぶ機会が与えられました。
寺子屋では、読み書き算盤と道徳を教わり、大勢の子が生活に必要な知識を学ぶことができました。
寺子屋のおかげで、当時、庶民の識字率(文字を読んで理解し書けること)は、世界でもトップクラスでした。
そして、商人にも農民にも欠かせないのが計算力です。
算盤は生活の上で大切な道具でした。
縦線と菱形を並べ、幾何学的に表現をした「算盤文様」は、江戸の粋な文様として親しまれました。
この文様は商売繁盛を願う縁起柄でした。
豊洲駅 : 紺碧色 と 水に雨龍文様
豊洲駅の色は「紺碧色」、文様は「水に雨龍文様」です。
深い青を表す「紺」と、濃い青緑を表す「碧」を合わせた色です。
強い日差しの夏空を「紺碧の空」、少し緑がかったい濃い青色の海を「紺碧の海」のように表現します。

龍は想像上の霊獣です。
水の中に棲み、竜巻となって天空に昇り、啼き声で嵐を呼び、雨の恵みを与えてくれる。
あらゆる生物の祖とされています。
龍にはいくつかの種類があり、そのうちの一つが「雨龍」。
「あまりょう」とも「あめりゅう」とも読みます。
角はなく、体は水でできているようにしなやか。
愛らしい姿ですが、マムシが500年生きて変化したとも言われます。
恵みの雨を降らせてくれるため「五穀豊穣」、大きく成長する途上の姿から「大器晩成」の意味があります。
駅の文様は、水文様と雨龍文様が組み合わされたデザインです。
